「いだてん」が低調な理由を考える
みなさんはNHKの大河ドラマって視聴されていますか?
私はしばらく見ない時期がありましたが、2013年の「八重の桜」から完全に視聴復帰。
以後毎年欠かさず日曜夜20時を楽しみにしています。
そして2019年は近代を描くドラマとして、「いだてん~東京オリムピック噺~」が宮藤官九郎脚本も話題で始まりましたが、こちらのニュースはYahoo!などでもよく取り上げているので、ご存知の方も多いのではと思いますが、はっきり言って、視聴率的にはここまで(2019年2月中旬)「大ゴケ」のスタート。
私もクドカン脚本ということで、期待をしていましたが、なぜこのような結果になった(なっている)のかを、大河一ファンとして考えてみました。
過去に最も視聴率が高かったドラマは?
この当時は私もまだ小学生でしたが、楽しんで見ていた記憶がある1987年放送。
今や世界の渡辺謙さんが主演だった「独眼竜政宗」。
この作品は平均視聴率が39.7パーセントだったとされます。
次ぐのは翌年放送、中井貴一さん主演の「武田信玄」で、39.2パーセントだったそうです。
しかし、当時と今では、色々なものがパーソナライズ化しているので、当時のような視聴率を叩きだすのは正直、物理的に難しいと思っています。
そこで近年(過去10年)の作品と比較すると、2008年の宮崎あおいさん主演「篤姫」が24.5パーセントと群を抜く高さ。
以後、2010年の福山雅治さん主演「龍馬伝」から、2018年の鈴木亮平さん主演「西郷どん」まで20パーセントを越えた作品はありません。
その間で最も視聴率が良かったのは2010年「龍馬伝」の18.7パーセント。
翌年の作品で、歴史ファンからは否定的なコメントも多いですが、上野樹里さん主演「江~姫たちの戦国~」で17.7パーセント。
次が2016年、三谷幸喜さん2度目の脚本で話題になった、堺雅人さん主演「真田丸」の16.6パーセントです。
ちなみに昨年の「西郷どん」は12.7パーセントでした。
視聴率に見る傾向
「西郷どん」も低調とされましたが、実は過去にも西郷隆盛を扱った作品がありました。
それは独眼竜政宗、武田信玄と高視聴率が続いた時代。
武田信玄の後の大原麗子さん主演「春日局」が33.1パーセントだった翌年。
1990年、西田敏行さん主演の「飛ぶが如く」です。
実は30パーセントが続いたこの時代に、巨匠・司馬遼太郎さん原作の大作にも関わらず23.2パーセントと、低調だったのです。
さらに遡って古くは1968年。
私も生まれる前の話しですが、北大路欣也さん主演の「竜馬がゆく」は14.5パーセント。
これも前後の作品と比較して、やはり低い数字でした。
1974年の渡哲也さん、途中から松方弘樹さんに主演が変わった「勝海舟」は24.2パーセントと、前後と比較しても健闘していますが、1977年、中村梅之助さん主演。大村益次郎を描いた「花神」は19.0パーセントとまたも、前後と比較しても低調。
1998年、本木雅弘主演の「徳川慶喜」も21.1パーセントで、前後の作品と比較し下り坂でしたし、初の三谷幸喜さん脚本と、SMAPの香取慎吾さんが主演で話題になった「新撰組!」も17.4パーセントと低調でした。
坂本龍馬や新撰組、西郷隆盛や大久保利通などヒーローの多い幕末なのですが、実は大河ドラマでは、視聴率だけを取ると「成功」したと言える作品がほぼないことが分かります。
なぜ幕末は数字が取れないのか
これは私見ですが、大河ドラマと関西の吉本新喜劇は似ていると思っています。
それはストーリーがあらかじめ分かっているということ。
そして決まったタイミングで、お約束のギャグが入る。
このお約束のギャグは、大河で言えば誰でも知っている有名な事件です。
例えば過去最高視聴率の独眼竜政宗こと、伊達政宗であれば、隻眼になったいきさつ。
弟を手にかけたこと。
実の父親が敵に囚われた際は、父親ごと相手を討ったこと。
そして、秀吉が小田原にくると、白装束で馳せ参じたことなどでしょうか。
全体のストーリーの中で、視聴者が少し疲れる時に、こういったお約束があると、そのお約束を見たいがため、視聴者を再度惹きつけることが出来ていると思います。
ところが、龍馬、西郷、大久保。
さらに木戸孝允や江藤新平はかにも様々な幕末英雄の場合、「単体」でのお約束が少ないことがあります。
龍馬なら最期の寺田屋。
大政奉還は影であって、あくまで主役は山内容堂ですし。
西郷なら同じく最期の西南戦争。
あとは征韓論のフレーズでしょう。
大久保にいたってはどうでしょうか?
完全に同時代を生きた西郷に、話題という面では隠れてしまっています。
木戸孝允もしかりですね。
江藤新平も佐賀の乱ですら、どれだけの方がご存知か…
それぞれ名前は知られているのですが、実際何をしたのか?
例えば、真田丸の真田幸村であれば、「大坂の陣の人」。
来年の明智光秀であれば「本能寺の変の人」と言った、「待ってました!」と言えるシーンがあるため、視聴者も感情移入がしやすいのですが、幕末の場合、「待ってました!」が人生の最期であったりするため、間が持たなくて視聴者が離れてしまうことが、案外幕末物で視聴率が取れない理由でないかと思います。
いだてんはなぜコケたのか
まず脚本の宮藤官九郎さん(以後クドカン)は若者向きで、高齢者にはついてこれないという意見には賛同しません。
高齢者であるかはさておき、そもそも劇団大人計画のメンバーで、同じく劇団の新感線とも深く関わり、阿部サダヲさんや古田新太さんなど、ベテラン役者と若い頃から仕事をし、むしろクドカンのストライク層は若者でなく、アラフォー、アラサーといった世代だと思います。
そして、劇団新感線のメタルマクベスなどは、シェークスピアの作品を完全アレンジした作品で、超ベテラン俳優も多く出演するため、劇場はけっこう高齢者の方も目立ちます。
クドカンの作品は高齢者にウケないから、高齢者が主要ファン層である大河では、数字が取れないというのは短絡すぎると思います。
幕末物で数字が取れない理由が、さらに増してしまったことが最大の理由と思っていて「お約束」がないんです。
そもそも金栗四三って誰?
から始まり、このドラマのクライマックスがどこにあるのかさえ見えてこない。
これは若者も同様で、例えばジブリアニメの「ラピュタ」。
「バルス祭り」等という言葉も浸透しましたが、「バルス」の瞬間に視聴率が一気に高くなる傾向が明確になっています。
視聴者は音楽でいう「分かりやすいサビ」を求めているわけで、今回の「いだてん」はそれが分からないことから「つまらない」といった雰囲気になってしまっていると思います。
これからの「いだてん」
私はちなみに歴史オタクです。
来年の明智光秀は今から楽しみです。
しかし、私はクドカン作品そのもは好きです。
多くを見ている訳でないですが、舞台のメタルマクベスや、テレビドラマのごめんね青春など、とても楽しく拝聴しました。
ですから、クドカンらしく大河だと思わずに、舞台のようにメチャクチャにクドカンワールドを展開してほしいなと思っています。
中途半端に残念な結果がわかっている金栗四三編は、これ以上の盛り上がりは厳しいかもしれないですが、後半ですね。
盟友の阿部サダヲさんとのパートは、分かりやすい「東京オリンピック招致成功」という「お約束」もありますし、舞台的な要素も組み込みやすいのでは、と思い盛り上がるのでないかなと期待しています。
ただし視聴率の大幅な巻き返しは厳しいとは思います。
「西郷どん」もラスト、城山で桐野利秋や村田新八ら盟友と最期を迎えるシーンでは視聴率を巻き返していますが、さきほどから触れていますが、「いだてん」の場合、そこまで大きな波がない話題だけに、「続けて見る」ことをしないと面白みにどうしても欠けてしまい、途中離脱した視聴者が、再び戻ってくることが難しいと思っているからです。
クドカンの大河
今回の話はそもそもNHKの戦略ミスだと思っています。
私自身、東京に住んでいますが、そこまで来年のオリンピックで街全体が異様な盛り上がりを見せているかと言えば、わりと冷めているというのが正直なところだと思います。
あ、これは政治・イデオロギーの右左の話じゃないですからね(苦笑)
話を戻しますが、少し強引に東京オリンピックムードを高めたいということで、手をつけてしまった題材だったかなぁと思います。
クドカン自体、確かに歴史モノは少ないですが、皆無というわけでないですし、別に戦国や幕末の武士モノでなくっても江戸時代の商人だとか、大河として扱わない題材は多いですし、クドカンならではのタッチで料理すると、美味しくなる素材はいくつもあると思っています。
まだまだ「いだてん」に期待しつつ、さらに第2弾にもチャレンジして欲しいなと思いますが、そもそもクドカンは瞬発力タイプの脚本家だと思うし、長丁場のマラソンタイプの大河向きではやはりないのかもしれませんね…
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